社会医療法人 ペガサス 馬場記念病院

診療科・部署紹介

前下小脳動脈

ノーマンズランドの世界で唯一の手術

ノーマンズランド(No man’s land.) とは、「人跡未踏の地」とも言ってもいいでしょう。あるいは、脳神経外科医にとってのノーマンズランドとは、人知の及ばない果てしもない遠い遠い世界(手術々野)と言い換えることができます。本邦脳神経外領域で顕微鏡手術の始まった1960年代頃我々脳神経外科医にとってのノーマンズランドは、脳幹および脳幹近傍でした。そして当時また現代においてもほんの少しでも傷つければ生命を脅かす最も危険な血管の一つ「前下小脳動脈」がそこ「ノーマンズランドの脳幹」の前面にあります。今回我々が経験したクモ膜下出血の症例はノーマンズランドにあるこの最も危険な動脈「前下小脳動脈」の破裂解離性動脈瘤でした。解離性動脈瘤/動脈瘤解離の完璧な治療は解離血管を閉塞させることですが、それを行うと必然的に末梢の灌流領域の虚血が生じてしまうのです。前下小脳動脈の閉塞は脳幹の虚血を生じほとんどの場合死に至る最悪の結果を意味し、それ故に最も危険な血管と謂われている所以なのです。クモ膜下出血発症当日に我々は、この危険な前下小脳動脈末梢の血行再建術をまず行い、引き続き解離した前下小脳動脈の両端の閉塞術(トラッピング)を行ったのです。つまり血行再建術と解離血管の閉塞を同時にしたのです。この例で行った血行再建術とは、後頭動脈(後ろ頭の頭皮を灌流する血管)を前下小脳動脈灌流域を共にする後下小脳動脈の小脳半球肢に血管吻合術を行って脳幹の虚血を回避させ死に至るのを防いだのです。術後の回復はすこぶる順調で手術側の聴力障害以外の後遺症は無く笑顔で退院していただくことができました。この例は、クモ膜下出血発症当日に脳幹にある前下小脳動脈の血行再建術と解離血管の閉塞を同時に行い20年近く経た今でも世界で唯一の手術例になっているのです(2024年5月現在)。この経験を生かし、当施設でその後3例の前下小脳動脈瘤の手術を成功させることができました。類似未破裂例では手術側の聴力障害を回避する事もできる様になりました。

トラッピング

※実際の手術映像が流れますので、苦手な方はご注意ください。

血行再建術

※実際の手術映像が流れますので、苦手な方はご注意ください。

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